広島地方裁判所 昭和44年(行ウ)5号 判決 1978年3月31日
原告 株式会社ナシヨナル会館 ほか一名
被告 広島東税務署長
訴訟代理人 中路義彦 三森継男 小島正義 ほか一名
主文
原告株式会社ナシヨナル会館の、「被告が、原告株式会社ナシヨナル会館に対し昭和四二年六月二四日青色申告書提出承認の取消通知書によりなした同原告の昭和三六年八月一日ないし昭和三七年七月三一日事業年度分以降の法人税に関する青色申告の承認を取消すとの処分が無効であることを確認する」との訴「被告が、原告株式会社ナシヨナル会館に対しそれぞれ昭和四二年六月二六日付法人税額等の更正通知書によりなした同原告の(一)昭和三六年八月一日より昭和三七年七月三一日までの事業年度における法人税の総所得金額を金一五、一一二、六八九円と更正した処分、(二)昭和三七年八月一日より昭和三八年七月三一日までの事業年度における法人税の総所得金額を金一八、〇九四、八四一円と更正した処分、(三)昭和三八年八月一日より昭和三九年七月三一日までの事業年度におけろ法人税の総所得金額を金一七、五五九、八八五円と更正した処分、はいずれも無効であることを確認する。」との訴をいずれも却下する。
被告が原告株式会社ナシヨナル会館に対し昭和四二年六月二六日付でなした昭和三九年分の源泉徴収にかかる所得税についての納税告知処分のうち、原告株式会社ナシヨナル会館が原告徐彩源に対し金一〇、八六二、五一六円を給与として支給したとして計算した限度を超える部分を取消す。
被告が原告徐彩源に対し昭和四二年九月一一日付でなした同原告の昭和三九年分所得税の総所得金額を金一九、二五四、九一五円と更正した処分のうち、金一三、七七〇、〇四五円を超える部分を取消す。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用中、却下にかかる訴に関する費用は被告の負担とし、その余は、これを一〇分し、その九を原告らの、その一を被告の各負担とする。
事実
一 双方の申立
(原告株式会社ナシヨナル会館(以下原告会社という))
(一) 被告が原告会社に対し昭和四二年六月二四日付「青色申告書提出承認の取消通知書」によりなした、同原告の昭和三六年八月一日ないし昭和三七年七月三一日事業年度分以降の法人税に関する青色申告の承認を取消すとの処分(以下青申承認取消処分という)は無効であることを確認する。
(二) 被告が原告会社に対し昭和四二年六月二六日付「法人税額等の更正通知書」によりなした同原告の
1 昭和三六年八月一日より昭和三七年七月三一日までの事業年度における法人税の総所得金額を金一五、一一二、六八九円と更正した処分(以下昭和三六年度分法人税更正処分という)
2 昭和三七年八月一日より昭和三八年七月三一日までの事業年度における法人税の総所得金額を金一八、〇九四、八四一円と更正した処分(以下昭和三七年度分法人税更正処分という)
3 昭和三八年八月一日より昭和三九年七月三一日までの事業年度における法人税の総所得金額を金一七、五五九、八八五円と更正した処分(以下昭和三八年度分法人税更正処分という)
はいずれも無効であることを確認する。
(三) 被告が原告会社に対し昭和四二年六月二六日付でなした。
1 昭和三七年分の源泉徴収にかかる所得税金四、六五三、九〇〇円の納税告知処分(以下昭和三七年分納税告知処分という)
2 昭和三八年分の源泉徴収にかかる所得税金五、一八五、八〇〇円の納税告知処分(以下昭和三八年分納税告知処分という)
3 昭和三九年分の源泉徴収にかかる所得税金七、〇九〇、七〇〇円の納税告知処分(以下昭和三九年分納税告知処分という)
をいずれも取消す。
(原告徐彩源(以下原告徐という))
被告が原告徐に対し昭和四二年九月一一日付でなした同原告の
1 昭和三七年分所得税の総所得金額を金一一、六四三、八六七円と更正した処分(以下昭和三七年分所得税更正処分という)のうち金一、一六七、三六〇円を超える部分
2 昭和三八年分所得税の総所得金額を金一四、五一〇、五一七円と更正した処分(以下昭和三八年分所得税更正処分という)のうち金二、八一七、九一九円を超える部分
3 昭和三九年分所得税の総所得金額を金一九、二五四、九一五円と更正した処分(以下昭和三九年分所得税更正処分という)のうち金四、〇四三、〇一九円を超える部分
をいずれも取消す。
(被告)
(一) 本案前の申立
原告会社の申立(一)、(二)の訴をいずれも却下する。
(二) 本案に対する申立
原告会社のその余の請求及び原告徐の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
二 原告らの請求原因
(一) 原告会社は、ぱちんこ遊戯業等を営む会社であり、原告徐は、原告会社の代表取締役である。
(二) 原告会社は、昭和三六年以降被告より青色申告について承認を受け、(1)昭和三六年八月一日より昭和三七年七月三一日まで、(2)昭和三七年八月一日より昭和三八年七月三一日まで(3)、昭和三八年八月一日より昭和三九年七月三一日までの、各事業年度(以下、それぞれ昭和三六年度分、昭和三七年度分、昭和三八年度分という)の総所得を、それぞれ法定の期間内に(1)五、三七九、六八二円、(2)八、〇七七、五五〇円、(3)四、三四九、〇二四円として申告し、原告徐は、昭和三七年分、昭和三八年分、昭和三九年分の所得につき、それぞれ法定期間内に、一、一六七、三六〇円、二、八一七、九一九円、四、〇四三、〇一九円を総所得金額として申告した。
(三) ところが、被告は、原告会社に対し昭和四二年六月二四日付で青色承認取消処分をなしたうえで、同年六月二六日付「法人税額等の更正通知書」により昭和三六年度分法人税更正処分、昭和三七年度分法人税更正処分、昭和三八年度分法人税更正処分を行ない、同時に原告会社の申告額と更正額との差額をすべて原告会社の代表取締役である原告徐に対する賞与と認定して原告会社に対し昭和四二年六月二六日付で昭和三七年分納税告知処分昭和三八年分納税告知処分、昭和三九年分納税告知処分を行なつて源泉所得税を加算し、さらに原告徐に対し昭和四二年九月一一日付で昭和三七年分所得税更正処分、昭和三八年分所得税更正処分、昭和三九年分所得税更正処分を行なつた。
(四) 原告会社は、原告会社に対する前記各処分について昭和四二年七月二四日被告に対し、それぞれ異議申立をしたところ訴外広島国税局長は、当時の国税通則法八〇条一項に基づき三ケ月の期間の経過した同年一〇月二五日に右各処分について審査請求があつたものとみなしたうえで昭和四四年、一月二四日そのいずれをも棄却する旨の裁決をなした。
原告徐も白己に対する各更正処分について昭和四二年九月三〇日付で被告に対し異議申立をしたところ、広島国税局長は、同じく同年一一月二二日に審査請求があつたものとみなしたうえで昭和四四年一月二四日これを棄却する旨の裁決をした。
(五) ところで被告は、原告が本訴を提起した後の昭和四九年七月二六日に本件青色承認取消処分、昭和三六年度分ないし昭和三八年度分各法人税更正処分をいずれも取消したが、原告会社に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分納税告知処分原告徐に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分所得税更正処分(以下、一括していうときは残余の処分という)は、なお取消されないまま存続している。
(六) しかし残余の処分は被告において原告会社が売上除外金を申告しなかつたとして本件青色申承認取消処分、昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分を行なつたうえ、原告会社の売上除外金を代表者である原告徐に対する賞与と認定し、右賞与について原告会社が所得税の源泉徴収をしていなかつたとして原告会社に対し源泉所得税の納税告知処分を原告徐が右賞与に相当する給与所得を申告しなかつたとして昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得税を更正してなされたものであり、これら残余の処分は、原告会社に対する本件青申承認取消処分、法人税更正処分を法律上、事実上の前提とするものであり、これらを唯一の原因としてなされたものであるから、残余の処分は、前提処分である本件青申承認取消処分、法人税更正処分が取消された以上、当然に無効または取消されるべきであるとともに、被告が残余の処分を取消さない以上、原告会社としては、本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分が無効であることの確認を求める。
(七) のみならず、残余の処分には、次のとおり違法がある。
1 (手続的違法)
残余の処分は、昭和三七年分ないし昭和三九年分に関するものであるが、これらは、国税の法定申告期限を三年以上経過したことが明らかな昭和四二年中に行なわれたものであるから、国税通則法七〇条一項に違反し、違法である。
2 原告徐は、祖国の統一を願う在日朝鮮人の各組織の重要な構成員であるところ、残余の処分は、在日朝鮮人の組織破壊を目的として政治的意図のもとになされたものであつて、違法な他事考慮(処分の動機における違法)に基づくものである。
3 (所得額認定における違法)
原告徐の昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得は、同原告の申告額のとおりであつて、被告がなした原告徐に対する右各年の所得税更正処分は、申告額をこえる部分について所得を過大に認定した違法があり、また、原告会社に対する納税告知処分の対象となつた原告徐の所得税の源泉徴収義務は、原告徐に更正の対象となつた所得が存することを前提とするものであるが、原告徐に右の所得が存しない以上、原告会社には原告徐の所得税を源泉徴収する義務はない。
(八) よつて、被告が原告会社に対してなした本件青申承認取消処分、法人税更止処分が無効であることの確認を求め、原告会社に対してなした各納税告知処分、原告徐に対してなした各所得税更正処分の取消を求める。
三 被告の本案前の答弁
原告会社が無効の確認を求めている同原告の申立(一)、(二)記載の各処分は、いずれも昭和四九年七月二六日付で被告において取消したから、右部分の訴は、対象となる処分がすでに不存在であつて、不適法である。
四 本案前の答弁に対する原告会社の認否
被告が、その主張の日に原告会社の申立(一)、(二)記載の各処分を取消したことは認めるが、右各処分を前提とする同申立(三)記載の処分がなお存続している以上、前者の各処分の無効確認を求める
訴の利益はある。
五 請求原因に対する被告の答弁
請求原因(一)ないし(五)の事突は認める。同(六)、(七)は争う。
六 被告の主張
(一) 被告は、係争事業年度の原告会社に対する課税金額を明らかにするため、その所得金額について原告会社の備え付け帳簿類によつて調査しようとしたが、原告会社は、日々の売上高、出金高等を確認するために最も重要な原始記録(日計表ーカウンター毎に日々の売上等を記入した伝票である一)を保管しておらず、日計表の基になるぱちんこ玉の増減計算表については昭和三六年一二月九日から昭和三七年一月一八日までの三九日間分のみを保管しているにすぎず、しかも被告が右玉の増減計算表による差益金額と原告会社の帳簿上の差益金額とを比較検討したところ、原告会社の帳簿には多額の売上除外があり、原告会社の帳簿に信憑性のないことが明らかとなつた。また被告が、原告会社の取引先金融機関である愛媛相互銀行広島支店、東邦相互銀行広島支店、福徳相互銀行広島支店、広島市信用金庫ならびに朝銀広島信用組合について調査したところ、原告会社、原告徐、浜野竜三(原告徐の日本名)、浜野尚子(原告徐の妻)、浜野生己(原告徐の妻の妹婿)等の名義で、それぞれ定期預金等(手形借入れの支払利息を含む)が存在しており、右各預金はいずれも各名義人の年間所得のうちからは到底受け入れる余裕のないものであり、原告会社の簿外預金であることがうかがえるが、これらの預金はいずれも原告会社の正規の帳簿には計上されていない。
さらに原告会社は、原告徐によつて支配されている個人的色彩の強い同族会社であるが、原告徐は、同人個人では他に事業活動をしていないにもかかわらず、土地建物等多額の個人資産を取得し、銀行取引による資金需要も大きく移動しており、原告会社の収入が流用されている疑いがあつて、同原告のこれらの資金繰りについて解明するため原告会社の代表者である原告徐に対し調査照会書を発するも同人は的確な回答をなさなかつた。
(二) このような実情から原告会社に対する実額所得による課税が不可能となつたため、被告において原告会社と地理的条件及び営業規模のほぼ同一な同業者を選定し、その一台当り平均売上高、平均差益率を基にして推計計算の方法により原告会社の課税所得を確定せざるを得なかつたものである。
原告会社の所得金額を推計した方法は次のとおりである。
1 同業者率算定の基礎となる同業者の選定について
被告は、同業者の選定にあたつては、営業的地理的条件が原告会社と近以すること、真正な所得金額が把握された同業類似の法人であること、営業規模がほぼ同程度であること等を考慮し、具体的には原告会社の営業場所が広島市松原町国鉄広島駅前であることから、同所とともに広島市内においてはぱちんこ営業場としては最高の条件を具える福屋百貨店付近に所在している別表六ないし八のA、B、Cの三法人を選定した。なお営業規模は、原告公社と比較してB、C法人はやや大きく、A法人はやや小さい
が、各法人各年度毎の機械一台、一日当りの売上高は近似している。
2 売上利益(売上差益金額)について
1により選定した同業三法人の各ぱちんこ機械一台、一日当りの売上高を算出し、この平均値をもつて同業者のぱちんこ機械一台、一日当りの売上高とし、これに原告会社の設置する機械台数を乗じ、更に年間稼動(営業)日数を乗じて、各係争年度の総売上高を計算し、同様にして算出した同業三法人平均の売上差益率(売上差益、すなわち売上金額から売上原価を控除したもの、を売上金額で除したもの)を右総売上高に乗じて売上利益額(売上差益金額)を算出した。その計算過程は別表六ないし一〇のとおりである。
したがつて原告会社の売上除外額は、昭和三六年度分一四、〇七一、二三四円、昭和三七年度分四、八二五、〇五一円、昭和三八年度分一四、九〇四、八九八円となつた。
3 一般経費について
被告は、同業三法人の平均経費率を係争年度毎に算出しこれにより原告会社の経費を推計したところ、原告会社の帳簿に計上された経費は各係争年度とも右の推計によつて算出された経費額よりも多額に支出されており、かつ経費の簿外支出はないものと判断されたから、原告会社の記帳経費額そのものを原告会社の一般経費と認定した。
4 営業利益について
従つて売上利益額から一般経費を控除した額が原告会社の営業利益額となるが、一般経費については原告会社の記帳額と被告の認定額が同一であるので、被告算出の売上利益額と原告会社の申告額(帳簿上の売上差益)との差額が原告会社の売上除外額となり、その額は前記2未尾のとおりである。
なお、ぱちんこ営業においては、日々の収入に変動があつたとしても一定期間(一ヶ月或いは一年)を通して計算した場合には、平均的に安定した収入を得ているということができるから、ぱちんこ営業の収入について同業者率による推計課税の方法をとることはもとより合理的である。
(三) 被告の原告会社に対する法人税更正処分の内訳は、別表一一ないし一三記載のとおりであるが、被告の更正による所得金額はいずれも推計計算の方法によつて算出した額の範囲内である。
(四) ところで原告会社の売上除外金については、社内に資産として留保されているものはなく、原告会社は代表者原告徐が支配しているところから、原告会社に帰属する収益を原告徐が収受して費消しているというべきであるから、被告は、右売上除外金額を代表者に対する賞与と認定した。
ところが原告会社は右賞与について所得税の源泉徴収をしていなかつたから、被告は原告会社に対し国税通則法(昭和三七年法律六七号)三六条一項二号、六七条により受給者原告徐にかかる源泉所得税の納税告知処分を行ない(その計算は別表一四のとおり)、それとともに前記賞与の提供を受けた相手方である原告徐についても賞与に相当する給与所得についてはその申告がなかつたから、国税通則法二四条により原告徐に対し係争年分の所得金額を別表一五ないし一七のとおり計算して更正したものである。
(五) 被告は、原告会社に対する本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分は、青申承認取消処分の理由不備の違法に関する最高裁昭和四九年四月二五日判決の趣旨を汲んで自らこれを取消したのであるが、残余の処分にはかかる理由不備の違法は在しないし、原告会社の所得認定の経過は、原告徐の所得についても同様にあてはまるものであるから、残余の処分はなお有効である。
(六) (青申承認取消処分及び法人税更正処分と源泉所得税の納税告知処分及び所得税の更正処分との関係について)
被告のなした本件青申承認取消処分及び法人税更正処分は前記のとおり青申承認取消処分の理由不備の違法を考慮して被告自らこれを取消したのであるが、右各処分はいずれも法人税法に基づいてなされた処分であり、他方源泉所得税納付告知処分は、所得税法二二一条に基づく源泉徴収にかかる所得税に関する国税徴収権を根拠として国税通則法三六条一項二号、六七条によつて国税徴収の手続としてなされた処分であり、原告徐に対する所得税更正処分は国税通則法二四条に基づいてなされた処分であつて、前二者の処分と後二者の処分は、その根拠法規を異にし、前二者の処分が後二者の処分の前提処分であるということはできないから、後二者の処分につき所得の推計計算が禁止されておらず、理由不備の違法も存しない以上、これらの処分について何ら取消されるべき事由は存しない。
(七) (国税通則法七〇条一項違反について)
原告会社は、原告徐を代表者とする同族会社であり、原告徐が原告会社の経営を一手に掌握しており、同社の資金運用をすべて操作し得る立場にあつたこと及び原告会社の簿外利益はすべて原告徐が賞与として取得していると認められることからすると、原告徐の所得税の過少申告は国税通則法七〇条二項四号の「偽りその他の不正な行為」に該当するから同号により原告徐の所得税は、法定申告期限から五年間の範囲内では更正し得るから、右期間内にされた原告徐の昭和三七年分ないし昭和三九年分所得税更正処分は適法である。
また原告会社に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分の源泉所得税の納税告知処分は、所得税法二二一条に基づく源泉徴収にかかる所得税に関する国税徴収権を根拠として国税通則法三六条一項二号によつて国税徴収の手続としてなされた処分であるから、国税通則法七〇条一項に掲げる更正、賦課決定とは別個の処分であつて同条の適用はない。
(八) (他事考慮の存在について)
被告は、租税負担公平の原則の見地から過少申告の是正を目的として残余の処分をなしたものであつて何ら他事考慮に基づくものではない。
(九) (所得額の認定について)
前叙のとおり、原告徐は、前記推計計算の結果明らかとなつた原告会社の売上除外金の全額を原告会社から賞与として支給を受けていると認められるので、被告は、右推計額の範囲内の額を原告会社の原告徐に対する賞与と認定したうえ(なお昭和三七年分については、これに利益処分による賞与も含めて)原告会社に対し昭和三七年分ないし昭和三九年分源泉所得税の納税告知処分を、原告徐に対し右認定賞与に原告会社の利益処分による賞与を加え昭和三七年分ないし昭和三九年分所得税更正処分をなしたものであつて、原告徐の所得額を過大に認定したものではない。
七 被告の主張に対する原告らの答弁及び反論
(一) 被告の主張(四)については、別表一四記載の源泉所得税の納税告知処分の計算内容のうち「その他の給与額」欄と「既納付税額」欄、及び別表一五ないし一七記載の原告徐の所得税の計算内容のうち「配当所得の更正後の金額」欄と「不動産所得の更正後の金額」欄はいずれも認めるが、その余の被告の主張は争う。
(二) かりに本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分が残余の処分と関連しないとしてもぱちんこ遊戯場は、庶民の気まぐれな嗜好によつて支えられている不確定要因の多い営業であり、同一場所、同一営業規模の同業者間においても著しい売上げの差が生じる特殊性を有するから被告のなした推計課税の方法には何ら合理性がない。
八 証拠関係<省略>
理由
一 本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分の法人税更正処分の無効確認を求める原告会社の訴について
被告が原告会社に対し、昭和四二年六月二四日付で本件青申承認取消処分をなしたうえで、同月二六日付で昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分をなしたこと、右各処分がいずれも被告により昭和四九年七月二六日に取消されたことは当事者間に争いがない。
そうすると右各処分は、被告が取消したことによつていずれも遡及的に効力を失なつたことになるから、もはや原告会社が無効確認を求める対象となる処分は存せず、従つてこの点に関する原告会社の訴は不適法である。なおこのことは残余の処分が取消されないまま存続しているか否かに関係はない。
二 残余の処分の取消を求める原告らの訴について
(一) 原告会社がぱちんこ遊戯業等を営む会社であり、原告徐が原告会社の代表取締役であること、原告会社が昭和三六年度ないし昭和三八年度の、原告徐が昭和三七年分ないし昭和三九年分の各所得を申告(その申告額は請求原因(二)記載のとおり)したところ、被告は、前記法人税更正処分を行なうと同時に、原告会社の申告額と更正額との差額を、すべて原告徐に対する賞与と認定して、原告会社に対し昭和四二年六月二六日付で、「昭和三七年分ないし昭和三九年分納税告知処分を行なつて源泉所得税を加算し、さらに原告徐に対し昭和四二年九月一一日付で、昭和三七年分ないし昭和三九年分所得更正処分を行なつたことは当事者間に争いがない。
(二) <証拠省略>及び弁論の全趣旨によると、広島東税務署の担当職員が、当時青色申告の承認を受けていた原告会社の昭和三六年度分ないし昭和三八年度分の所得額を把握するため、原告会社
の帳簿を調査しようとしたところ、原告会社は、日々の売上高、出金高等を確認するための原始記録であるぱちんこ機械の玉の増減を記録するメモを昭和三六年一二月九日から昭和三七年一月一八日までの三九日間のみを保存していたにすぎず、また右メモに基づいて作成される各カウンター毎の日々の売上げ表は全く保管しておらず、原告徐がこれを廃棄していたこと、そのため原告会社の会計仕訳伝票、現金出納簿等の帳簿類が適正な金額を記入しているか否かにつき疑義があつたこと、さらに同税務署の担当職員が、原告会社の取引先金融機関である愛媛相互銀行広島支店、東邦相互銀行広島支店、福徳相互銀行広島支店、広島市信用金庫及び朝銀広島信用組合について調査したところ、原告会社、原告会社の代表者である原告徐、浜野竜三(原告徐の日本名)、浜野尚子(原告徐の妻)、浜野生己(原告徐の妻の妹婿)の各名義で別表一ないし五のとおり手形借入れの支払利息を含む定期預金等が存在しており、その合計額は、昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までに二三、一九九、三八五円(内原告会社名義分一三、〇三〇、一二五円)、昭和三七年八日一日から昭和三八年七月三一日までに一七、九一四、六八〇円(内原告会社名義分八、三二三、〇九〇円)、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までにおいて二〇、五四五、三四〇円(内原告会社名義分四、八六〇、九〇〇円)であるが、これらの預金はいずれも原告会社の正規の帳簿には計上されていないこと、原告徐のこれらの期間内における収入は、朝銀広島信用組合からの理事長報酬と原告会社からの役員報酬及び両者からの配当金のほか、同人所有の土地建物を原告会社に賃貸していることによる地代、家賃収入であるが、同人が所轄税務署に提出した確定申告書によると、同人の所得金額は、昭和三七年分が一、一六七、三六〇円、昭和三八年分が二、八一七、九一九円、昭和三九年分が四、〇四三、〇一九円と記載されており、また浜野尚子は、同人名義で広島市松原町の原告徐所有建物の二階において「東風荘」なる麻雀屋を経常しているが、同女の提出した確定申告書によれば、前記各年を通じ年問三〇万円の営業所得と原告会社の利益処分による配当が二〇万ないし三〇万円程度、合計年間五〇万ないし六〇万円程度の所得を有するにすぎないと記載されていること、更に浜野生己は、原告会社に勤務しているが、同人の昭和三六年分の所得金額は、広島東税務署の課税台帳によると、給与所得が一一四、七〇八円、譲渡所得が六三、六六〇円、合計一七八、三六八円であつたこと、ところで原告会社が前記金融機関より融資を受けた額については、被告担当職員が、原告会社の代表者である原告徐にその使途を照会するも、同人から明確な回答が得られず、他方被告の調査によつても金融機関からの借入金の一部について原告徐が昭和三五年に広島市松原町の土地を取得した際の代金の支払に充てられたことが判明したほかは、原告会社の運用資金に使われたことは確認できなかつたこと、また原告会社は、原告徐がその経営の実権を把握している同族会社であり、ぱちんこ営業以外には収入がないことが認められ、この認定を左右するに足る的確な証拠はない。
ところで右認定事実からすると、原告会社には、その帳簿に記載されていない簿外預金が存するし、また原告徐ら個人名義の預金は、右各個人の所得からは到底預金し得る金額ではないといわざるを得ないし、他方原告会社にはぱちんこ営業による売上げ金以外に収入がないこと、原告会社か原告徐の個人的色彩の強い同族会社であること及び個人名義の預金者と原告徐との関係からすると、原告会社の簿外預金及び原告徐ら個人名義の預金は、その全部であるか否かはともかくとして原告会社の売上げ金を脱漏してなされた疑いが強いといわざるを得ず、しかも前記原告会社と原告徐の関係からすると脱漏された原告会社の売上げ金は、原告徐の所得金額計算上は原告会社から原告徐に対する賞与として支払われたものと認定するのが相当である。
しかし原告会社の簿外預金及び原告徐ら個人名義の預金のうち、いくらが原告会社の売上げ金か、換言すれば原告会社から原告徐に対して支払われたと認定すべき賞与であるか否かはそれ自体では明確でないから、右賞与相当額については推計計算の方法によつて算出するほかないというべきである。
(三) そこで被告のした推計方法の合理性について検討するのに<証拠省略>によると、被告は、原告会社名義の簿外預金、原告徐、浜野尚子らの個人名義の預金のうちから、定期預金等の払込まれたもの、以前の債務の返済に充当されたもの、個人が土地を取得した借入金にかかる支払利息等の財産の増減を計算して、これより原告徐、浜野尚子らが収入した所得を控除し、その残りを原告会社の脱漏売上げ金として、いわゆる資産増減法に基づいて原告会社の所得を計算すると共に原告会社から原告徐に対する賞与額を計算し、これによつて増加した原告徐の所得に対し原告会社に対し昭和三七年分ないし昭和三九年分各納税告知処分を、原告徐に対し昭和三七年分ないし昭和三九年分所得税更正処分をそれぞれなしたこと、これに対し原告会社及び原告徐から審査請求を受けた広島国税局協議団では、原告徐が所有する広島市大神谷の土地造成費や広島市牛出町の自宅建築費についてその内訳が不明であり、また銀行からの借入金の使途及び原告徐が主張する同胞に対する貸借関係について原告徐に照会するも明確な回答がなく、結局原告徐の全資産を明らかにできず、そのため資産増減法による推計では原告徐に対する適正な所得金額を計算することができなかつたことから、原告会社と同業のばちんこ業者の所得から原告会社の所得を推計することとしたこと、その所得推計の方法として同協議団はまず原告会社と同一営業を営む法人のうち、A、B、Cの三法人を選定したが、右三法人はいずれもその所得金額が被告において適正に把握されていたこと、原告会社は広島市松原町の広島駅前に所在しているのであるが、前記三法人は、広島市内において広島駅前とほぼ同様の立地条件にある福屋百貨店付近に所在していること、また、B、C法人は原告会社よりもやや規模が大きく、Aはやや小さいが、これら三法人のぱちんこ機械一台、一日当たりの売上高は別表九記載(但し、A法人の昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度の一台当り一日売上高は一、四六一円の明らかな計算違いであるから、同表の数値は一部〔 〕内のとおりに訂正する)のとおり近似していたこと、そこで同協議団は、右三法人の一日におけるぱちんこ機械一台当たりの売上金額の平均値をもつて同業者のぱちんこ機械一台の一日当たりの売上高とし、(なお、C法人については、中途開業のため時期が遅く昭和三六年四月から昭和三七年三月までの売上げが不明なため、昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までの事業年度についてだけは、A、B法人の売上げの平均である)、これに原告会社の有するぱちんこ台数四五〇台を乗じ、更に年間稼動日数が昭和三六年度及び昭和三七年度は三四一日、昭和三八年度は三四〇日であつたから、これを乗じて昭和三六年度分ないし昭和三八年度分の原告会社の総売上高を算出したこと、そしてこれと同様の方法で算出した同業者平均の売上差益率(売上差益金額、すなわち売上金額から売上原価を控除したもの、を売上金額で除したもの)を右総売上高に乗じて売上利益額(売上差益金額、すなわち売上金額から売上原価を控除した額)を算出し、その額から原告会社の決算書類によつて算出された売上差益を控除することによつて、売上除外額を算出したこと、これらの計算の詳細は別表六ないし一〇記載のとおり(但しA法人に関する前記の計算違いにより別表六、九、一〇の数値を一部〔 〕内のとおり訂正する)であること、ところで原告会社の一般経費(租税公課、水道光熱費、交際費、消耗品費、福利厚生費、修繕費、通信費等)については、係争年度中の開業者前記三法人の平均経費率(一般経費を売上金額で除したもの)を算定して原告会社の一般経費を推計してみたところ、原告会社の帳簿に記載されていた必要経費の方が多額であつたため、協議団としては原告会社の帳簿記載額の方を原告会社の一般経費と認定したうえ、売上利益額より一般経費を控除して原告会社の営業利益額を算出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。
右認定した事実によると、広島国税局協議団の選定した同業者は、いずれもその所得金額が適正に把握されており、かつその営業立地条件、営業規模については、原告会社とほぼ同一の条件にあるものということができるから、前記A、B、Cの三法人の売上高及び差益率の平均値をもとに原告会社の売上金額を算定した推計方法には合理性がある(但し一部計算違いの点を除く)というべきであり、このようにして算出した推計方法による原告会社の昭和三六年度分ないし昭和三八年度分の売上除外金額は、別表一〇の「差引売上除外額」欄記載のとおり(但し昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度分は〔 〕内の数値)となるから、原告会社の申告した所得金額との差額は、右売上除外金額相当額すなわち昭和三六年度分が一四、〇七一、二三四円、昭和三七年度分が一四、八二五、〇五一円、昭和三八年度分が八、八七三、〇二六円となるところ、前記のとおり原告会社が代表者原告徐の個人的色彩の強い法人であること、原告徐が原告会社の原始記録の保管にあたり、これを廃棄していたこと原告徐が個人的に資産を取得しながらその出所を明らかにしていないことからすると、前記の差額は、原告会社の代表者である原告徐が収入金として使用したものと認めるのが相当であり、従つて原告会社は右差額を原告徐に対し賞与として支給したものというべきである。
なお原告らは、原告会社のようなぱちんこ営業は、庶民の気まぐれ嗜好によつて支えられている不確定要因の多い営業であるから、同業者率による推計方法には合理性がない旨主張しているが、ぱちんこ営業においてかりに日々の収入に変動があつたとしても、一定程度の期間を通算すればある程度の安定した収入を得るであろうことは、前記三法人の一日当たりの収入金、差益率が近似していることからも推認できるところであるから、ぱちんこ業者に関し同業者率によつて推計することも合理性があり、この点に関する原告らの主張は理由がない。
四 次に原告らは、残余の処分は原告会社に対する本件青申承認取消処分を前提とした昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分を基礎とし、これを原因として行なわれた処分であるから、これらの処分が取消された後は残余の処分はその前提を欠くことになり、当然に無効または取消されるべき処分となる旨主張するので検討する。まず、原告会社に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分の納税告知処分は、国税通則法三六条一項二号に基づいてなされたもので、源泉徴収による所得税に関するものであり、所得税法を根拠法とするものであるところ、源泉徴収による所得税は、法人税や一般の所得税とは違つて、その納税義務は、支払者(源泉徴収義務者)が源泉徴収の対象となる所得を受給者(源泉納税義務者)に支払つた時に成立し、その成立と同時に(つまり納税者の確定申告またはこれを補正するための税務署長等の処分などの特別の手続を要しないで)納付すべき税額が当然に確定するもので(国税通則法一五条一項ないし三項)、支払者(源泉徴収義務者)は、右のいわば自動的に確定した税領を受給者(源泉納税義務者)に対する支払額から徴収して国に納付すべきこととなるのであつて、それが法定の納期限までに納付されないときに、税務署長は支払者(源泉徴収義務者)に対し当該所得の支払と同時に確定した税額を示して納税の告知(国税通則法三六条)を行なうものであり、この納税の告知は、国税徴収手続の第一段階として当該所得の支払と同時に確定した税額の納付を支払者(源泉徴収義務者)に請求する徴収処分としての性質を有するものであるから、支払者(源泉徴収義務者)に対する所得税納税告知処分は、支払者(源泉徴収義務者)が青色申告法人であるか否か、また同人に対する青色申告の承認が取消されたか否か、更には支払者(源泉徴収義務者)に対する法人税の更正処分が取消されたか否かにかかわらず、支払者(源泉徴収義務者〕が源泉徴収の対象となるべき所得を支払つたと認められる以上は、その納期限までに源泉徴収による所得税の納付がない限り、当然にこれをなし得るものである。
また原告徐に対する所得税史正処分にしても、それは国税通則法二四条に基づいてなされた処分であり、原告徐の所得に関するものであるから、本件青申承認取消処分及び法人税更正処分が前提となるものではなく、全く別個のものである。
従つて被告が、法人税法の規定により原告会社に対し本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分を行ない、その後これらの処分を取消したとしても、なんら残余の処分の効力には影響がないというべきである。
(五) さらに原告らは、被告のなした残余の処分は、更正決定の期間制限を定めた国税通則法七〇条一項に違反する旨主張するので検討する。
まず被告のなした原告徐に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得税更正処分については、前記(二)で認定したところによれば、原告会社は原告徐を代表者とする同族会社であり、同人が原告会社の経営を掌握する立場にあつたこと及び原告会社の帳簿に記載されていない売上げ除外額を原告徐が自己の収入として取得していると認められるにかかわらず原告徐は、その所得税の申告に際しては自己の収入とした原告会社の売上げ除外額を申告していなかつたことが認められるから、原告徐の昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得税の申告は、不正な行為によつて納付すべき所得税の申告を免れたものといわざるを得ず、従つて原告徐に対する所得税の更正期間は、国税通則法七〇条二項四号により所得税の法定申告期限から五年間と解するのが相当である。
そうすると、原告徐は、昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得税の申告につき、最も早い昭和三七年分の申告にしても、所得税法一二〇条一項によりその法定申告期限は昭和三八年三月一五日であるから、右申告期限から五年以内の期間内であることが明らかな昭和四二年六月二日付でなされた原告徐に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分の所得税更正処分はいずれも違法ではないものということができる。
また、被告がなした原告会社に対する昭和三七年分ないし昭和三九年分の各納税告知処分については、右処分は、所得税法二二一条に基づく源泉徴収にかかる所得税に関する国税徴収権を根拠とし、国税通則法三六条一項二号により国税徴収の手続としてなされた処分であり、その性質は課税処分ではなく徴収処分と解すべきであるから、国税通則法七〇条の適用される余地はない。
(六) 次に原告らは、残余の処分は政治的意図のものになされた違法な他事考慮に基づくものである旨主張するが、この主張に沿うかの如き<証拠省略>の結果はにわかに信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(七) そこで原告会社に対する納税告知処分の内容について案ずるのに、原告会社が原告徐に支給した給与のうち、別表一四記載の「既納付税額(昭和三七年分については、その他の給与に対する税額、昭和三八、三九年分については、利益処分による賞与とその他の給与とに対する税額」及び「その他の給与額」は当事者間に争いがなく、これに<証拠省略>を総合すると、原告会社が原告徐に支給した給与のうち認定賞与を除く給与の金額は、昭和三七年分が一、七四三、五〇〇円(内利益処分による賞与額七四三、五〇〇円)、昭和三八年分が一、七九一、〇〇〇円(同額六七三、〇〇〇円)、昭和三九年分が一、九八九、五〇〇円(同額七九四、〇〇〇円)であることが認められ、これに原告会社の原告徐に対する賞与と認定すべき前記売上除外金額を加えると、原告会社が原告徐に支給した給与総額は、昭和三七年分が一五、八一四、七三四円、昭和三八年分が一六、六一六、〇五一円、昭和三九年分が一〇、八六二、五二六円となるから、前記納税告知処分のうち昭和三七年分及び昭和三八年分は、いずれも原告徐に対する給与を右の範囲内で認定し、これに基づいてなされたものであつて適法であり、また昭和三九年分については、右計算により原告会社が原告徐に対し少なくとも総額一〇、八六二、五二六円を給与として支給したことは認められるが、給与総額が右金額を超えるものであつたことを肯認するに足りる証拠はないから、同年分の納税告知処分のうち、右給与を支給したとして計算した限度内では適法であるが、その限度を超える部分は違法というべきである。
つぎに原告徐に対する所得税更正処分の内容について案ずるのに、原告徐が昭和三七年分ないし昭和三九年分の給与として、別表一五ないし一七の各「給与所得の申告金額」欄記載の額の支給を受けたこと、昭和三七年分ないし昭和三九年分の配当所得額及び不動産所得額が別表一五ないし一七の各「更正後の金額」欄記載の額であることは当事者間に争いがなく、また原告徐が原告会社から支給を受けた各年分の利益処分による賞与額は前記認定のとおりであり、これらに原告会社の原告徐に対する賞与と認定すべき前記売上除外金額を加えると、原告徐の総所得金額は、昭和三七年分が一五、九八二、〇九四円、昭和三八年分が一八、三一五、九七〇円、昭和三九年分が一三、七七〇、〇四五円となるところ、本件所得税更正処分のうち昭和三七年分及び昭和三八年分は、いずれも原告徐の総所得金額を右の範囲内で更正してなされたものであるから適法であり、昭和三九年分については、右計算により原告徐の総所得金額が少なくとも一三、七七〇、〇四五円であつたことは認められるが、総所得が右金額を超えるものであることを肯認するに足りる証拠はないから、同年分の更正処分のうち、右金額の限度内においては適法であるが、その限度を超えて原告徐の総所得金額を認定した部分は違法というべきである。
三 結論
以上の説示によると、本件青申承認取消処分及び昭和三六年分ないし昭和三八年分の法人税更正処分の無効確認を求める原告会社の請求はいずれも不適法であるから却下することとし、残余の処分の取消を求める原告らの請求のうち、原告会社の、昭和三九年分納税告知処分の取消を求める請求及び原告徐の、同年分の所得税更正処分の取消を求める請求は、いずれも処分が違法であると判示した限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとする。
ところで本件記録によると、原告会社は、本訴において当初残余の処分のみならず本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分の取消をも求め、これに対し被告は右各処分はいずれも適法なものであるとして抗争していたが、本訴が提起されて後五年以上を経過した昭和四九年七月二六日付で本件青申承認取消処分及び昭和三六年度分ないし昭和三八年度分法人税更正処分を取消し、そのため原告会社は、昭和五一年三月九日の第一八回口頭弁論期日で被告の取消にかかる処分につき、その無効確認を求める訴に変更したこと、被告はこれに対し同口頭弁論期日で原告会社が変更した訴の却下を求める本案前の申立を提出したことが認められ、このような本件訴訟の経過に照らすと、訴却下となつた原告会社の請求については、民事訴訟法九じ条を適用してその訴訟費用を全部被告に負担させ、残余の処分の取消を求める原告らの請求に関する訴訟費用についてのみ同法八九条、九二条九三条を適用して主文第五項のとおり負担させるのが相当である。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 森川憲明 谷岡武教 岡田雄一)
別表一ないし五、一一ないし一七<省略>
別表六 A法人(広島市本通)
科目
36.8.1
37.7.31
37.8.1
38.7.31
38.8.1
39.7.31
備考
売上金額
56,462,887円
58,556,713円
70,377,755円
繰越商品
233,279
272,620
369,062
仕入金額
28,228,082
29,383,809
39,843,648
商品仕入
3,171,582
3,476,331
3,484,907
→内523,500円否認
煙草〃
7,275,000
7,501,000
6,371,500
期末商品
272,620
369,062
267,023
差引原価
38,635,323
40,264,698
49,278,594
売上総利益
17,827,564
18,292,015
21,099,161
差益率
31.5%
31.2%
29.9%
機械台数
135
135
135
176
か動日数
341
341
19
259
1台当1日売上高
1,226
1,272
1,844〔1,461〕
〔 〕内は判決による訂正数値
別表七 B法人(広島市胡町)但しロ、ハ欄は松江分を含む
科目
イ
ロ
ハ
備考
36.10.1
37.9.30
37.10.1
38.9.30
38.10.1
39.9.30
売上金額
285,712,550
332,723,336
375,097,087
繰越商品
263,289
420,098
873,850
商品仕入
215,487,050
221,947,596
247,579,246
期末商品
420,098
873,850
817,164
差引原価
215,330,241
221,493,844
247,635,932
売上利益
70,382,309
111,229,492
127,461,155
差益率
24.6%
33.4%
33.9%
機械台数
618
618(303)
618(303)
( )内は松江分
稼働日数
334
340(113)
341(341)
1台当1日売上高
1,384
1,361
1,194
別表八 C法人(広島市新川場町)
科目
36.4.1
37.3.31
37.4.1
38.3.31
38.4.1
39.3.31
備考
売上金額
-
306,391,029
316,179,022
36.4.1~37.3.31
分は己斐支店
期首たな卸高
202,993
483,906
中途開業につき
採用しない
仕入高
219,694,687
225,598,340
期末たな卸高
483,906
591,412
売上原価
219,413,774
225,490,834
売上利益
86,977,255
90,688,188
差益率
28.3%
28,6%
機械台数
701
701
稼働日数
341
341
1台当1日売上高
1,281
1,322
別表九 同業法人の1台当り1日の売上高及び差益率の平均値
区分
1台当1日売上高
36.8.1
37.7.31
37.8.1
38.7.31
38.8.1
39.7.31
備考
A法人
1,226円
1,272円
1,844円
〔1,461〕
〔 〕内は判決による訂正数値
B〃
1,384
1,361
1,194
C〃
-
1,281
1,322
平均
1,305
1,304
1,453
〔1,325〕
〔 〕内同上
差益率
A法人
31.5%
31.2%
29.9%
B〃
24.6
33.4
33.9
C〃
-
28.3
28.6
平均
28.0
30.9
30.8
別表一〇 原告会社の売上除外額の計算
区分
36.8.1
37.7.31
37.8.1
38.7.31
38.8.1
39.7.31
備考
算出売上高
200,252,250
200,098,800
222,309,000
〔202,725,000〕
〔 〕内は判決
による訂正数値
1台当平均
売上高×台数×日数
(1,305×450×341)
(1,304×450×341)
(1,453×450×340)
〔1,325〕
〔 〕内同上
売上差益
(売上高×差益率)
56,070,630
61,830,529
68,471,172
〔62,439,300〕
〔 〕内同上
帳簿上の差益
41,999,396
47,005,478
53,566,274
差引売上除外額
14,071,234
14,825,051
14,904,898
〔8,873,026〕
〔 〕内同上